大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟家庭裁判所長岡支部 昭和39年(少)745号 決定 1965年1月12日

少年 N・U(昭二〇・一・二九生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一、昭和三九年七月○○日頃の午後一一時頃、行きずりの女性である○田○子(当一七年)を同人が一八年に満たないことを知りながら長岡市○町○丁目○○番地○沢旅館に誘い入れ、同所二階客室で同人と性交し、

第二、同年八月下旬○辺○子を伴つて実母○枝の許を立出で、一旦は帰宅したものの同年九月二九日ふたたび家出して帰宅を肯ぜず、○浦○一を首領とする非行グループ(通称○浦組)の配下に入りその構成員らの住居を転々してこれらの者と交友し、更に同年一一月○○日から○中○子(当一八年)と同棲し同人をバーの女給として稼働させて自らは徒遊していたものであつて、放置すれば将来罪を犯す虞れがある

ものである。

(中等少年院に送致する理由)

一、安易で放縦な生活態度が身につき、困難に対処する意欲的な側面は認められない。従つて高校を中退した後就職しても職場に安定せず、非行集団に投じてそこに安住の場を見出している。また行きずりの女性を次々と誘惑して性交渉を結び、その後は顧みることなく罪悪感を抱くこともない。

二、少年は父母の婚姻外で出生した子であつて、父は行方が知れない。従つて少年は早くから母のみの監護を受けて来たが、現在では既に母の監護の能力の及ぶところではない。

三、以上のほか少年の非行の内容ならびに少年の性格、環境等をすべて考えあわせると、少年を相当の期間収容保護することが必要であると考えられる。

(法令の適用)

犯罪事実について 第一事実 新潟県青少年保護育成条例第九条第一項、第一八条第一項

第二事実 少年法第三条第一項第三号ロ、ハ、

処遇について 少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項

(非行事実第一について)

新潟県青少年保護育成条例第九条第一項は「何人も青少年に対しみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない」ものと規定しているが、右にいう「みだらな性行為」の意義をどのような解するかは問題となるところである。

これに類似する概念としては、刑法第一八二条(淫行勧誘罪)にいう「淫行」および児童福祉法第三四条第六号(児童に淫行をさせる行為)にいう「淫行」などが考えられるが、青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為から青少年を保護すべき本条例の目的(同条例第一条)に照して独自にこれを解釈するのを相当とすると解せられるところ、青少年の心身の未成熟、殊に精神的に未だ十分に安定を得ていないことと、反倫理的な行動体験による衝撃や影響をうけることが大きく、たやすくこれらから回復し得ないことなどの点で青少年においては成人に比して遙かに大きいものがあることを考慮しなければならない。

これらの観点に立つてみると、青少年の情操を害するおそれのある行為は厳にこれを禁じなければならないのであつて、そうしてみると同条例に禁止されるみだらな性行為とは、青少年を相手方とする性行為一般を指すものではないが、特定の方法態様による性交もしくは売春の相手方となることなどに限定されるものではなく、広く社会通念に照して倫理的な非難を受けるべき、性交または性交類似の行為のすべてを指称すると解するのを相当とする。従つて当然のこととして、性行為の相手方である青少年の意思の如何は本条の罪の成立に影響を及ぼさないのであつて、妾契約や不純異性交遊中のあるものは右に該当するものといわなければならない。

しかして本件にあつては、少年は街頭で遇々出会つた一面識もない女性をその夜のうちに性交渉に誘つたのであつて、そこに互いに意思の疎通があつたわけでもなく愛情が生じたわけでもないのであるから、社会の倫理観念の現段階にあつては非難に値する行為として「みだらな性行為」にあたるといわなければならない。相手方たる女性が少年の勧誘を直ちに応諾したとしても事情に何ら異るところはないのである。

(裁判官 宮本康昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例